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トゥモロー・ワールド【映画・ネタバレ感想】赤子の泣き声を聞け!★★★★(4.0)

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あらすじ

女性が妊娠しなくなってから18年がたった2027年。子どもがいなくなった混乱から内戦とテロが横行し、世界は荒廃していた。かつて熱い活動家だった英国人テオは、今では信念を失いエネルギー省に勤めている。ある日彼は、不法移民たちのテロ組織”魚(フィッシュ)”のリーダーで、元妻のジュリアンからある依頼を受ける。それはある移民の少女を海まで送り届けるというもの。しかしテオはその道すがら衝撃の事実を知る。なんとその少女は妊娠していたのだ…。

 

 

ルフォンソ・キュアロンによる2006年のSF作品です。

キュアロンは本作の前にハリーポッターシリーズの『アズカバンの囚人』を監督しています。本作の後、2013年に『ゼロ・グラビティ』を撮り、米国アカデミー監督賞を受賞しています。どちらも大作映画にもかかわらず、そこはかとないもの悲しみや忍び寄るような陰気さを感じる作品でした。

キュアロン作品の中でわたしが一番好きなのは、マイベストロードムービーのひとつ、『天国の口、終わりの楽園』です。これもなかなか、真夏の日陰のような、濃い暗さを後に残す映画でしたね。

 

天国の口、終りの楽園。 [DVD]

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 撮影は『天国の口~』や『ゼロ・グラビティ』でもタッグを組んでいるエマニュエル・ルベツキ。本作でもその見事な仕事ぶりを堪能できます。

本作の最大の特徴と言えるのが、多用される「長回し」です。実際にはデジタル処理で編集してワンカットに見せている(『バードマン』なんかでも使われていた手法)そうなのですが、これにより臨場感が否が応にも増しています。特に終盤の戦場のシーンはまるで自分もそこにいるかのような没入感を感じました。

 

 

ネタバレあります。ご注意ください。

 

 

 

 

 

子どもがいない=希望がない

出生率がゼロとなった近未来が舞台です。少子化ならぬ、無子化です。大石圭さんの小説で『出生率0』というそのものずばりな作品がありましたが、あちらは最後に◯◯が、◯◯する衝撃の結末でしたが、こちらは安心してください(?)ちゃんと一人の赤ん坊が生まれます。                                    

無子化のせいで絶望した人類。どうやら世界中のほとんどの都市はテロやら内戦やらで崩壊してしまったようです。金持ちも「遺産」を遺す者がおらず、ただ無益に生きているような状態。誰もが希望を失っている…。

そう、「子ども」は「未来の希望」なんだという当たり前のことを、本作で改めて感じました。

 

 

その命を守るために

世界中が混乱に陥る中、イギリスだけはまだマシなため、各国から難民たちが集まってきている。しかし政府は彼らを不法移民として取り締まり、収容所送りにしてしまっています。収容所送りを免れた移民たちは地下組織を形成し、自由を勝ち取るため暗躍しています。

そんな中、組織内で女の子の妊娠が発覚。何しろ18年ぶりの赤ん坊です。彼らは移民たちの隆起を成功させるため、赤ん坊を利用しようとします。

しかし、赤ん坊の母親キーは、安全な場所で出産&子育てしたいと願います。そりゃそうだ。

 その頼みの綱が「トゥモロー号」という船。それは独自のコミュニティーを形成している謎の組織、「ヒューマン・プロジェクト」のものらしい。荒廃した世界のどこかにユートピアが…なんてまるで都市伝説のようなそんな話を、テオは当初信じていませんでした。でも彼は、キーのため、赤ん坊のため、危険を侵して、肉親の死という犠牲まで払って、船を目指すことになります。

 

その道中、キーは産気づき、辛くも女の子を出産します(この出産シーンはかなりリアルなのだけれど、どうやって撮ったんだろう?CG?合成?いずれにせよすごい迫力)。

 赤ん坊をとりあげたことで、より一層の使命感を得たテオに、もはや敵無し。

隆起した移民組織が反乱を起こし、政府軍と銃撃戦を繰り広げる中を、弾を避けてるんじゃない、弾が避けてるんだ!と言わんばかりにかい潜ります。

銃弾が飛び交い、砲弾が撃ち込まれる中、響き渡る赤ん坊の泣き声。兵士たちも思わず銃を撃つのをやめ、赤ん坊に目を見張り、テオと親子のために道を開けます。

そうこうしてなんとかテオと親子はボートへ乗り込み沖へ出ますが、被弾し致命傷を負ったテオはキーに授乳後のゲップ方法を伝授して息を引き取ります。そして希望の船、「トゥモロー号」がやって来た…。

 

 

 

赤ん坊の泣き声は希望の調べ

この映画で最も重要なシーンはやはり、銃撃戦の中、赤ん坊を抱いて通るシーンだと思います。恐らくこのシーンが、この映画の全てなんじゃないかな。

鳴り止まない銃声の中、響く泣き声。

泣く赤ん坊に手を伸ばす大人たち。

そして一瞬静まる戦場。

子どものために、兵士たちは道を開ける…。

このシーンを観て、ああこれは、反戦映画だったんだなぁと漠然と思ったのでした。

 

そして、エンディングではタイトル(原題は「CHILDREN OF MEN」=人類の子供)が映し出されたところで子どもたちの笑い声が聞こえてきます。それはこの映画の世界ではもう何年も聞かれていないもの。公園や学校は廃墟となり、子どもたちの痕跡は過去の遺物になった。そんな中だからこそ、赤ん坊の泣き声は希望の調べとなるんですね。

さて、今の日本は子どもたちの声が「騒音認定」されるような国です。

赤ん坊や子どもたちの声に喜びを感じられる大人が増えたらいいなぁと、映画とは全然関係ないことをふと思いました。

 

 

 

というわけで、全体的にいろいろ詰め込みすぎ感は否めないものの、もたもたヒヤヒヤの逃走シーンや、臨場感溢れる戦闘シーン(そこそこグロめ)など、見応えあり、反戦と「子どもは希望」という普遍的なメッセージにぐっときました。迫力と臨場感のある撮影にはただただ感嘆。素晴らしかった。

てか、人類の希望を宿した女の子が、小生意気なビッチっていうのもリアルでよかったなぁ。妊娠?知らねーよそんなの!って感じでやりまくってたんだろうか…(ドキドキ)。

 

 

少子化について考える★★

赤子の偉大さを再確認★★★★

総合★★★★(4) 

 

 

原作。未読ですが、大分展開は違うようです。

トゥモロー・ワールド (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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音楽もよかったです。ヒッピーな親の死に際に流れていたのはストーンズの名曲、ルビーチューズディ…

「トゥモロー・ワールド」オリジナル・サウンドトラック

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  • アーティスト: サントラ,プレッシャー feat.ウォリアー・クイーン,ザ・リバティーンズ,サイラス(ランダム・トリオ),ジョン・レノン,ジャーヴィス・コッカー,ディープ・パープル,ルーツ・マヌーヴァ,ジュニア・パーカー,マイケル・プライス,キング・クリムゾン
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前述した子どもが生まれなくなった設定の小説。最後、〇〇が、〇〇を使って、〇〇を…!(なんのこっちゃ)

出生率0 (河出文庫)

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 作品情報
  • 監督 アルフォンソ・キュアロン
  • 製作総指揮  アーミアン・バーンスタイン、トーマス・A・ブリス
  • 原作 P・D・ジェームズ『人類の子供たち』
  • 脚本 アルフォンソ・キュアロン、ティモシー・J・セクストン
  • 音楽 ジョン・タヴナー
  • 製作年 2006年
  • 製作国・地域 アメリカ、イギリス
  • 原題 CHILDREN OF MEN
  • 出演 クライヴ・オーウェン、ジュリアン・ムーア、マイケル・ケイン、キウェテル・イジョフォー