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【映画】陽だまりハウスでマラソンを【ネタバレ感想】老人が走って何が悪い ★★★★☆(4.5)

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陽だまりハウスでマラソンを [DVD]

あらすじ

元マラソン選手で、1956年メルボルンオリンピックの金メダリスト、パウル。現在は愛する妻マーゴと庭のりんごを育てながらのんびりと暮らしている。ある日、マーゴが転倒しケガを負ってしまう。それをきっかけに、一人娘ビルギットから介護の必要性を訴えられた二人は、仕方なく老人ホームに入居することとなる。

とはいえ施設での生活は工作や合唱など、健康なパウルには意味を見出せないものばかり。老人扱いされるのに我慢ならなくなったパウルはマラソンのトレーニングをはじめる。「ベルリンマラソンに出る!」と意気込むパウルに当初は呆れていたマーゴも、熱心な夫の姿にほだされ、かつてのようにサポートにまわる。そのうちパウルの栄光を思い出した入居者たちも、彼を応援するようになる。しかし施設の職員たちはそれを快く思わず…。

 

 

 

おじいちゃん映画が好きです。
だいたいおじいちゃんが主役の映画ってハズレがない気がする(わたしにとっては)。
 
今作で一番の見所は、なんと言っても主役のディーター・ハラーフォルデンの、78歳とは思えないガッツあふれる走りっぷり。この映画で初めてマラソンに挑戦したというから驚きです。彼はドイツでは著名な喜劇役者だそう。日本で言うといかりや長介あたりかなぁ、佇まいは森繁久弥っぽいけど。あ、どちらも故人だったね…。
 
妻マーゴ役のターチャ・サイブトのおばあちゃんもキュートで、入居者を演じたほかの高齢者の方たちも素敵でした。
 
「老人がフルマラソン完走を目指す」というシンプルでわかりやすいプロットながら、子世代の事情、介護問題などをさりげなく盛り込んで、堅実なヒューマンドラマとなっています。
 

(パンフレット:700円 ページ割りにトラックを模していたり、こじんまりとマラソンコースのイラストが入っていたり、細かいところにこだわりがあって好き。コラムは精神科医の斎藤環氏。 )

 

ネタバレあります。ご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

走る老人=脅威? 

1956年のメルボルンオリンピックで西ドイツ国民に希望を与えたパウル・アヴァホフもいまや補聴器の手放せないおじいちゃんに。
今年は庭のりんごの木に虫がつき、思う通りに収穫できないことを弁明すると、娘からは呆れ顔で、「今年でしょう」と一蹴される始末。
この掛け合いで、娘の苛立ちをうまく表していて、なんかね、あー身につまされるわーと、いたたまれない気持ちになりました。
 
施設には入りたくないけど、妻マーゴも足元おぼつかないし、仕方ないので施設に入居することになるんだけど、そこの老人たちの無気力なこと。
黙々と謎のクリ人形制作、お遊戯みたいな歌の時間。食事も無言でただ口に運ぶだけ…。
いずれはああなるのか、という不安と諦めがパウルとマーゴを襲います。
家に帰ろうと言うパウルに、「ここが終のすみかよ」と諭す妻マーゴ。
それならば好きなことをしよう、とパウルはくたびれたシューズを履き、施設の庭でランニングを始めるのです。
  
施設側にとって、パウルのような老人は迷惑を通り越して、脅威です 。
本来はパウルのように自由気ままに行動するのが老人なのであって、入居者のように大人しくしている方が不自然なはずなんですけど、施設側の教育(というか統率)によって、老人たちはあのように訓練されているわけです。彼らはそれが正しいことで、幸せだと思ってる(もちろんそれは悪いことではないんだけど…)。
なので、本来の老人性を刺激するような輩はありがたくない存在です。
施設内の輪を乱され、秩序が失われる=仕事が増えるってことだから。
 
ただ、療法士のミュラーは別の理由でパウルを脅威だと感じるんですね。ミュラーにとっての老人は、暗くて重くて死ぬ存在。だからパウルを理解できない。
彼女の老人観はある意味間違ってないんだけど、自分の経験(多くの老人の自死を見てきたこと)に寄りすぎて、客観的に個人を見る力が無くなってしまったんでしょう。
そして挙句に本来は自分が癒す存在であるべき老人=パウルから、「君は大丈夫だ」などと励まされてしまう。これに彼女は屈辱とも、恐怖ともとれる感情を抱いたのでは、と推察しました。
だからこそミュラーはパウルを”老人性うつ”という「病気」にしたかったんだと思います。
そして、自分が「助ける側」にまわりたかったのだろうと。
 
多分、どちらも悪意はないのです。
ただ、パウルのような人には合わなかっただけで。
老人扱いプラス病気扱いに怒ったパウルはミュラーさんに反撃(眼鏡越しの目つぶし!)、マーゴと施設を脱走します(笑)。
 
 

走りはじめたマイレボリューション

けれど一人娘のビルギットは多忙な国際線のキャビンアテンダントで、家にいない。自宅は売りに出されてて帰るところがない。そんな二人はなぜかテレビ番組に出演、インタビューを受けます。そこでパウルは施設での扱いへの不満を口にし、ベルリンマラソン出場を公に宣言します。
 
この展開、なんでそんなことになっちゃったのかわからなかったんだけど。
介護問題を提起するためとはいえ、必要な描写だったのかしらん…。
 
そんなこんなあり、二人はマラソンに向け準備を進めます。
なんとか選手登録を終えた帰りの電車内で、夫婦は寄り添って笑い合う。
 

れども練習の最中、マーゴが病に倒れてしまいます。妻ががんに冒されていることがわかり、失意の底に立たされるパウル。

必死の願いもむなしく、その数日後、マーゴは亡くなってしまいます。 一人施設に戻ってきたパウルを入居者たちは優しく向かえます。けれども悲しみの中、パウルは自傷騒動を起こし、鎮静剤を投与され手足を拘束されてしまいます。もはや走る意欲も気力もない…。

そんなパウルを救ったのは、対立していた施設の堅物の仕切り屋ルドルフ(ルドルフは秩序を重んじる反面、若いミュラーさんにどさくさに紛れてセクハラするゲスな一面も)と、体たらく介護士トビアスでした。(介護士トビアスは勤務態度も性格も最悪で、パウルと庭で競争した時には、「300ユーロで勝ちを譲るよ」とかクズ発言したり(そして結局全力で負ける)。でも実は熱い男だったんだぜ!) 

トビアスは規則を破り、パウルの拘束を解いて、マラソン会場へ連れ出します。  ルドルフは入居者をたきつけて、みんなでパウルの応援へ向かいます。

パウルは足を痛め、苦しみながらも必死に走ります。妻との約束を守るため、みんなの期待に応えるため。なんとか42.195キロを完走したパウルの目には、歓声をあげる娘と施設の入居者たちの姿が… 

 

1年後、老人たちの主体性を重んじる賑やかなホームに生まれ変わった施設には、入居者と和気藹々と過ごすパウルの姿が。ミュラーさんは施設をやめ、子どもを救うためアフリカへ行ったことが語られます(ちょっと安直すぎ?)。娘はずっと支えてくれていた元カレと結婚し、赤ちゃんも生まれた模様。パウルが孫を抱きあげ、幸せな気持ちで庭のりんごの木を見上げて映画は終わります。 

 

良きおじいちゃん映画でした!

日本ではもちろん、先進国では老人介護は大きな問題です。わたしの両親はまだそこまでの年齢ではありませんが、いずれは考えなきゃならない問題だな、と。

日本では暗めに描かれがちなこの問題を欧州ではわりとフラットに、さらっと描かれていることが多い気がします。

あとね、おじいちゃん映画観るたび思うんだけど、老人の扱いと子育てって、どこかやっぱり似てるなぁ、と。子どもは自分の限界を知らない、お年寄りはかつての自分も今と変わらないと思ってる。だから納得できるとこまでやらせてあげるのが一番なのよね。相手の気持ちを尊重してあげるということ。まぁこれがなかなか難しいんだけどね…。 

ちなみに、邦題では「陽だまりハウス」となってますが、陽だまりなシーンはほとんどなくて、パウルが走っている時ってだいたい雨か大風なのね(笑)。

映画を観終わって帰る際、雨が降ってたのだけれど、思わず走って帰っちゃったよ! 

そんなわけでだいぶ長文となってしまいましたが、誰が観ても幸せな気分になれる、素敵なおじいちゃん映画でしたよ!

 

 

自分と親の将来を考える★★★

雨の中を走りたくなる★★★★

総合★★★★☆(4.5)     

 

 

1番好きな老夫婦映画。老人が銀行強盗して何が悪い!   

 

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こんな映画もあるよ。   

 

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