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【邦画】凶悪【ネタバレ感想】深淵を覗くと言うことは。★★★★(4.0)

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凶悪

あらすじ

雑誌「明潮24」の編集者・藤井(山田孝之)は、死刑囚・須藤(ピエール瀧)からの、まだ警察にも話していない余罪についての手紙を受け取る。そこには須藤が「先生」と慕っていた不動産ブローカー・木村(リリー・フランキー)と行った、残忍な殺人について書かれていた…。

ベストセラーノンフィクションの映画化。

 

 

 

さっぱりわからなかった…。
 
いや、映画の内容はわかりましたよ。とても。そうじゃなくて、殺人者たちの思考回路がまったくもって理解できなかった。「いやいやいや、なんでそうなるの?」と何度も思いました。
 
チンピラで死刑囚のピエール瀧が本当にピエール瀧してて、もしピエール瀧賞があるなら贈呈したいくらい(何のこっちゃ?)。須藤の名言、「ぶっこむ」は新しい日本語としてわたくしの辞書に記録されました(笑)。
 
実録犯罪もの映画としては「冷たい熱帯魚」が引き合いに出されていますが、あちらは園子温監督の趣味も相まって非リアルで、終始可笑しかったのですが。
わたしとしては今作の方が不快指数は上です。
 
それに、でんでんは暴力の延長としての殺人といった感じだったけど、リリー・フランキーは無邪気で楽しそうに殺しを行うのがまた違う狂気を帯びていて、断然怖かったです。
もうね、CMでリリーさん見るたびにビクッてしちゃう。ご本人にはまったく罪はないのですが(むしろ素晴らしい演技だったと言うことです)…。「トントントントンヒノノニトン♪」とか言って背後からヤる気だな!とか、もはやおでんくんにも裏があるんじゃないかと疑ってかかるレベル(笑)。
 
ていうかポスターのリリーさん、悪意あり過ぎでしょ。
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目が怖ぇ…。
 
記事の担当編集者を、山田孝之がリリーとピエールの2大凶悪に挟まれながらも鬼気迫る演技で好演。
 
そして藤井の妻役の池脇千鶴ちゃん。もう最近はやさぐれた役が多い印象。疲れた主婦感がまたようけ似合う。いつのまにかそんな年齢になったんだなぁ…(遠い目)。
 
この、千鶴ちゃんが出てくる編集者の私生活パートは映画独自の創作ですが、この映画の普遍的テーマ性を訴えるにはよかったのではなかろうかと、わたしは好感を持って観ました。ただ浅すぎて取って付けた感があったのも事実。もう少し掘り下げてくれたらよかったなーと思います。このプロットのままTBSあたりでドラマ化してくれたら面白そうかも。
 
 
ネタバレしています。ご注意ください。

 

 

 

 

 

 

無邪気さが怖い 

実際の事件の詳細はウィキペディアさんや他の方のサイトにうまくまとめられているので省きますが、細部は違えど、ほとんどは映画通りのようで…。おそろしや。
 
死刑囚が告発した3件の殺人のうち、立件された3件目の保険金殺人が、映画では大きく取り上げられていたような印象。
 
主人公である編集者の家族との関係性(認知症の母を施設に入れるべきか)と、被害者遺族でありながら加害者でもある電気店一家の苦悩(借金のために家族を殺させるしかない)を対比させるためだったのだろうと思います。
 
電気店の父親殺害のシーンは、おそらくこの映画のハイライトでしょう。喜々としてスタンガンで暴行を加えるシーンは、手持ち花火で蟻を焼く子供を見ているみたいでだった。笑いながら木村が、「僕にもやらせて」って言うのがね、本当もう、ぞっとした。無邪気さが発露の殺人が一番邪悪でたちが悪いでしょ。
 
「お金が欲しい→保険金かけて殺す」はいいとして(良くないけど)、その先のベクトルには間違いなく「人殺しクソ楽しwww」みたいな感情があったと思うのね。それが本当に気持ち悪かった。
 
殺害前に、須藤の舎弟が老人を釣りに連れて行ってあげるんだけど、そこである種の交流があったように見せかけるのがまた、監督さん、いやらしいですよ(褒めてます)。そこで舎弟は「須藤さんのためなら俺は死ねる。あんたも覚悟決めろ」と、道理が通ってるような、ないようなこと言って、ちゃっかり死亡フラグ立てちゃうんだけど。
 
 

内なる殺意

借金に苦しむ電気屋一家(ちなみに、息子役は群青いろの廣末哲万。出てきた瞬間から、もう暗い!…もちろん褒めてます笑)は、殺されるとわかっていながら父親を木村と須藤に引き渡します。一家は父親の死を望んでいた。その「内なる殺意」を木村たちにつけ込まれてしまった訳です。
自分の生活のために家族を生贄に差し出す。それはもちろん、認知症の母を持つ藤井の葛藤とも重なる。
 
藤井は正義感に篤く、犯罪被害者に寄ったジャーナリストなんですね。彼は「正しい」記者でありたい、と思っている(ただ、藤井がそうなった過去などが描かれていれば、彼の行動にもう少し説得力があったとは思う)。
 
だから多分、須藤と木村の事件は自分の倫理観が揺さぶられるような、衝撃的なものだったんだろうと思います。
取材に没頭する理由を、真偽はどうあれ、名目上は「被害者の魂を救う」って言ってるし。認知症の母と介護に疲れた妻が待つ家から逃げたいってのももちろんあったと思うけどね。でも、被害者の為に、という気持ちも嘘ではなかったと思うよ。
その強い正義感は、殺人者への殺意となった。法による裁き=死刑を受けさせたいと考えるようになった藤井は、木村を追い詰める為にやり過ぎて警察沙汰にもなってしまう。
無精髭を生やしぼさぼさの髪で、面会室のガラス越しに被害者の無念を主張するその姿は、もやは狂気以外の何者でもない。藤井の妻はそんな姿の夫に対し、「死んだ人なんてどうでもいい!」と、看破。妻にして見れば認知症の義母を押し付けられて、いい加減にしろよって気分でしょうな。
 
このシーンはもちろん、須藤と藤井の面会シーンの対比なんだと思います。ガラスのこちらにいたはずの藤井が、あちら側に行ってしまっているっていう。
強い正義感は必ずしも善ではないのだ。
 
多分ね、藤井は須藤と木村の犯罪を追体験し、その行為を憎悪しながらも魅入られてしまったんだと思うの。深淵を覗けば深淵もこちらを見ているっていうニーチェの有名な言葉があるけれど、まさにそれ。
藤井の妻はそんな夫に「楽しかったんでしょう?」と問いかけています。藤井自身もその言葉を嫌悪しながら否定することはできない。
事件が凄惨であればあるほど、残酷であればあるほど、人は感心を抱くもの。怖いなぁ、酷いなぁ、って思いながら、楽しむ。人間の内にはそういう黒い部分が少なからずあるんだよね。
 
木村の悪事を世に知らしめた藤井の記事は一躍トップニュースとなり、警察も木村を逮捕する。木村は3件の殺人のうち、1件のみ立件され無期懲役に、須藤は懲役20年の刑が言い渡される。もちろんすでに須藤は上告中とは言え死刑判決を受けているので、意味はないんだけど。ただ、藤井は上告裁判を起こす須藤に怒りを覚えている。被害者に強く肩入れする藤井だからこそ、あれだけのことをしておいて、生き永らえようとするのがもう許せない。
法廷で思わず須藤に、「お前は死ぬべきだ、生きる喜びなんか感じるな」と叫ぶのだけれど、キリスト教に入信した須藤は「神様は生きて償えとおしゃいましたよ」などと宣う。この時のピエールの嫌味なドヤ顔が…もうたまらん(笑)。
 
一方の木村は面会室で、そんな藤井の「内なる殺意」を見透かして対峙する。「俺を殺したがってるのは…」と言ってガラス越しに指差す。その指の先にいるのは藤井であり、映画を観ているわたしでもある。
藤井同様わたしたち観客もまた、面会室のこちら側に取り残されたまま、なす術もない。
 
希望のない話の中で、藤井が妻との生活を選び、母親を施設に入れる決断をしたのが、悲しくも救いだったのかな。
藤井は決して電気屋一家のように母を見捨てることはないだろうし、きっとこれからも、自身の正義によった記事を書いていくんだろうと思います。
 
 

演出とかのこといろいろ

映画の冒頭、走る車のベッドライトが夜道を照らしているシーンから始まるんだけど、あれ?ターミネーター?と一瞬思ったり思わなかったり(笑)。そんなことで油断させておいて(?)間もなく、凄惨な暴力シーンが始まるんだよ。おいおい、まだ準備できてねぇよ!って。はっきり言ってね、冒頭から気分は最悪ですよ!(笑)
 
それから、木村の初登場シーンの時空移動演出には参りました。
この映画のラスボスである木村がいつ、どう現れるのか、ドキワクしながら観ていたので、これ以上ない最高の登場の仕方に鳥肌が立ちました。窓を介した時空移動演出。特にものすごく目新しいってわけでもないのだけれど、あの状況でくるとは思わなかったのでね、「おわぁ!」と思いました。
だから、まだ準備できてないんだってば!(笑)
 
今まさに家族が殺されようとしている時に囲む食卓の空気感とか、人体焼却中の「肉の焼ける匂いがするなぁ」発言、その後の和やか(でもなんか異様)なクリスマスパーティーとか、不穏なのに滑稽な雰囲気が面白怖かった。
 
 あと、ついつい考えてしまうのはタイトルでもある「凶悪」について。1番凶悪なのは一体誰だったのだろう?と。
罪悪感のかけらもなく残忍な殺人を繰り返す木村や須藤か。
借金のために父親を生贄に差し出した家族か。
事件をまともに捜査しなかった警察か。
殺人者を憎悪し、死刑を望む藤井か。
それとも、凶悪事件を喜んで見聞きし、そしていずれ忘れる、我々大衆か?
深淵は、常に隣にある。
 
 
リリーに首ったけ★★★★
「ぶっこむぞ」の破壊力★★★★★
総合★★★★(4.0)
 
 
 
原作本。相当面白そうです。

 

凶悪―ある死刑囚の告発 (新潮文庫)

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同時に語られることの多い園子温監督作。でんでんがすご過ぎて途中から笑えるから不思議。 

 

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