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嗤う分身【映画・ネタバレ感想】僕とボクのSUKIYAKI★★★★(4.0)

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嗤う分身(字幕版)

あらすじ

大佐と呼ばれる指導者を皆が崇拝している架空の国。前時代的情報処理機を使った仕事に就いているサイモン・ジェームス(ジェシー・アイゼンバーグ)は内気で鈍臭く、職場でも空気のような存在。ある日、地下鉄で客にどやされ席を譲り、挙句IDの入った鞄をドアに挟まれて失くしてしまう。受付ではぞんざいに扱われ、想いを寄せるハンナ(ミア・ワシコウスカ)からも相手にされない。しばらくして、自分と瓜二つの新入社員、ジェームス・サイモン(ジェシー・アイゼンバーグ二役)が入社してきて…。

 

 

いろいろ面白かったです。

日本のグループサウンズが流れる洋画、はじめて観たよ。それがまた、ピタリとハマってるからすごい。

 

シネフィル監督っぽい映画です。

そこはかとなく漂う社会主義臭さ、自然光を用いない暗いトーンの映像、終始無愛想で無表情な脇役たち、立ちこめる濃い霧…個々のモチーフは全く目新しくないんだけど、それを一遍に、しかもそれぞれをうまーく散りばめた監督のセンスの良さには脱帽です。
 
主人公の職場は未来世紀ブラジルっぽいし、行きつけのダイナーや老人ホームはカウリスマキっぽい。キューブリックやデビッド・リンチ感もあり…などと映画通っぽくぶってみたり(笑)。とにかく素人目に見ても、いろいろな映画へのリスペクトが感じられて、監督は余程の映画好きなんだろうなぁ、と推測できました。
細部にいたるまでこだわり抜かれていて、作り込まれた独特の世界観はなかなか好き嫌いが分かれそうですが、わたしはかなり好きでしたよ!
 
 
 
 
以下ネタバレしております。
 
 
 
 

アイデンティティの喪失と奪還

一応原作はドストエフスキーの『二重人格(分身)』らしいのですが、こんな話じゃなかったと思う。いや、もう10年以上も前に読んだからすっかり内容は忘れてるんだけど…。少なくともグループサウンズが流れるような描写はなかったぞ(笑)。
地味で冴えないサイモンの前に、瓜二つ(でも他人からは特にそう思われていない)のジェームスが現れ、徐々に自分のアイデンティティが浸食されていくことになります。
瓜二つだと気付いているのはお互いだけ。要領がよく、人好きのするジェームスを、最初こそ好意的に接していたサイモンでしたが、そのうちうまく丸め込まれ、結果、仕事の手柄は全てジェームスのものになり、代わりに不祥事は全て自分のせいに。想いを寄せていたハンナまで奪われ、サイモンは窮地に立たされてしまう。
 
挙句母親の葬式にまで出席したジェームスに、ついに堪忍袋の緒が切れて、怒りの鉄槌を食らわせます。…しかし!殴った自分までも負傷してしまうのです(この墓場のシーンには濃い霧が効果的に使われ、まるで五里霧中に陥ったサイモンの心情を表しているように思えます)。
つまり、別々の個人であった筈のサイモンとジェームスは、互いの分身であり自分自身でもあった、と。サイモンは自分を取り戻すため、究極の選択をします。
最後、病院へと運ばれるサイモンの傍らには愛するハンナと、大佐の姿が。分身から解放されたサイモンはかすかに微笑みます…。
 
 

「大佐」から紐解いてみると…

わたしがこの映画で注目したのは「大佐」の存在。最初はただの社会主義国家の指導者みたいなもんなのかなぁーと思ってたら、そうではなく、信仰の対象みたいな感じなのね。宗教団体の教祖みたいな。職場を追われるサイモンは、「大佐ならわかってくれる!」と叫ぶし、ラストには死にかけたサイモンの前に現れ、その姿はまるで神様やキリストのよう。
 
そう考えると、この話はある種、悪魔との対決みたいな系譜に入るのかなと思ったり。『ジキル博士とハイド氏』に端を発する数ある二重人格・ドッペルゲンガーもの(理性と欲望の対立)の中で、大体の主人公は悪=欲側に近づいていくものなんだけど、この映画の主人公は決して悪に寄ることはないんだよね。
自分自身を「正当に」生きるということは、常に命懸けでなければならないということなのかなぁ、と勝手に解釈しました。
 
ただね、そんな小難しい内容とは裏腹に、映像と音楽がかなり面白いから全く飽きずに最後まで観られる。
映画の序盤、ハンナから「私のために曲をかけて」と言われたサイモンがジュークボックスで選んだのは、なんと「上を向いて歩こう」!このシーンでもうつかみはオッケー(笑)。それから、グループサウンズの名曲「ブルーシャトー」が流れ、ジェームスとハンナが抱き合うシーンは相当に楽しいです(ちなみにこのシーンのチャプター名は「彼女とボクのブルーシャトー」。ナイスネーミングセンス!)。
 
すぐ壊れるエレベーター、謎のパーティ、勤労推奨プロパガンダCM、70年代風特撮ドラマ、小道具にも社会主義的要素が頻繁に登場するので、一歩間違うと古臭くてダサくなっちゃうところを、絶妙なさじ加減でぎりぎりかっこよくしてる。この感じ、「ドライヴ」を観た時と似てるかな、と思ったり(あれはダサいのを本気でやろうとしている潔さが清々しかったんだけど)。
 
 

ミア・ワシコウスカのカワムカキャラ!

そういえば「ドライヴ」のキャリー・マリガンと、この映画のミア・ワシコウスカの雰囲気もどことなく似ているような。
今作のミアは、アリスや「イノセント・ワールド」で見せたような若さキラキラは封印して、すこぶる身勝手で薄幸ぶってる役を嫌味と可愛らしさのうまいバランスで演じており、アリスから随分成長したなぁー、なんて上から目線ですみません。
 
このハンナがかなりの曲者で、自分がストーカーを自殺に追いやっても懲りずに、終盤にはサイモンに「あなたが死んでくれない?」なんて平然と言ってのける。悲劇のヒロインに酔ってるだけなのに、そんなハンナに夢中のサイモン。まあ、男ってそんなもんよね〜。
 
サイモンはハンナのアパートを毎晩双眼鏡でのぞきをしているんだけど、中盤にはハンナ自身それに気付いていたことが判明し、「別にいいの、安心するから」とかさらっと言うわけ。いやー同性としてはこの発言、かなり引いたんだけど。要は、「思われてるアタシ」が好きな人物なのよね。あーごめん、わたしこのキャラ嫌いみたい(笑)。
「ドライヴ」のキャリーの役もあんまり好きじゃなかったしな…。
 
 
愉快さ★★★★
悲しさ★★★☆
怖ろしさ★★
総合★★★★(4.0)
 
 
 
作品情報
  • 監督  リチャード・アイオアディ
  • 製作総指揮  マイケル・ケイン、グレイアム・コックス、テッサ・ロス、ナイジェル・ウィリアムズ
  • 原作  フュードル・ドストエフスキー『二重人格(分身)』
  • 脚本  リチャード・アイオアディ、アヴィ・コリン
  • 音楽  アンドリュー・ヒューイット
  • 製作年  2013年
  • 製作国・地域  イギリス
  • 原題  THE DOUBLE
  • 出演  ジェシー・アイゼンバーグ、ミア・ワシコウスカ