ファンタスティック映画主婦

専業主婦の専業主婦による専業主婦のためにはならない映画ブログ。考察などとは無縁の感想文は基本ネタバレ。独断と偏見による☆採点 満点は★5

フレンチアルプスで起きたことーー父親の権威失墜?!いやいやそんなもの、もともとなかったから!★★★☆(3.8)

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あらすじ
5日間のバカンスを家族で過ごそうと、フランスのスキーリゾートにやって来たスウェーデン人のトマス、エバ夫妻と二人の子どもたち。1日目は楽しくスキーに興じる家族だったが、2日目にレストランのテラス席での食事中、人為的な雪崩が想定外に大きくなり、突如家族に襲いかかる。結局大事に至ることはなかったが、その時トマスは思わず子どもと妻を置いてその場を逃げ出してしまっており…。




昨年見逃してしまった映画、やっと観ました。
なんとなくもっとカラッとしたコメディかと思っていたんですけどね、大分ウェッティなシリアスでしたね(笑いどころもあったけれど)。
原題の「FORCE MAJEURE」は不可抗力という意味だそうです。不可抗力…不可抗力ね…(笑)。


以下ネタバレあり。









沈黙する妻、鈍感な夫

まず、やっぱり考えちゃったのが、自分だったらどうしたかなーということ。
雪崩にびびって一人で逃げた夫を前にしたら、わたしならその場で指さして「びびってやんのだっせー」って言ってやりますね、きっと。多分子どもも「パパってビビりだね〜」って言うと思います(笑)。
おそらく旅行の間中はずっと言い続けるだろうし、何かの度に話題にすることだろうと思いますね。ええ、ええ、うちはそういう家庭ですよ!
もしこれがアメリカ映画で、ジョージ・クルーニージュリア・ロバーツが夫婦だったら「あんた!逃げてんじゃないわよっ!」と速攻大喧嘩になるところでしょう(役者名に意味はありません)。
…と思ったらマジでハリウッドリメイク決定してたんですね
イントロダクション | 映画『フレンチアルプスで起きたこと』


でもスウェーデンの夫婦はそんな下品なことはしない。妻は沈黙してそのままランチを続ける。夫は夫で何食わぬ顔で戻って来て、「大丈夫だった?」なんて言ってくる。いやはや、上品な夫婦ですわ。困ったもんだ。
ここで奥さんがするべきなのは怒るにしろ揶揄するにしろ悲しむにしろ、何らかのアクションを起こすことなんです。こういう、「黙って不機嫌アピール」を女の人は結構やりがちですけど、基本男の人って言わないとわかんないからねー。案の定トマスは「え、なんか怒ってる?」ってなる。



表出する怒りと不信

やっとエバがこの雪崩の一件を語りだすのはその日の夜、ホテルで知り合った女性とその行きずりの間男(さすがフランス!)とバーで4人で飲んでいる最中。
雪崩の話をしだしたのはトマスの方で、ということはつまり、彼自身にとって逃げ出したことは大したことじゃないんだよね。「雪崩めっちゃ怖かった」ってことだけなのよ。
それがこの人にとっての「不可抗力」。だから悪いことしたなんてこれっぽっちも思ってない。そもそも記憶を書き換えて「逃げ出してない、君と僕の認識の相違だ」とか言ってますからね、手に負えません。妻としたらざけんじゃねーよって気分です。
でも、一応なんとかやり過ごそうと一旦は和解の素振りを見せます(でも実際は超苛ついてる)。もちろんトマスに妻の胸中を察することはできない。

次の日の夜、友人カップルの前で、エバに再び雪崩の話を蒸し返され、「逃げ出したことを認めろ」と責められてやっと、トマスはことの重大さを理解します。スマホの動画を証拠として見せられ、「逃げてない」の言い訳はできなくなる。でも、自尊心は高いから容易に非を認めるなんてできない。仕事人間男にありがちな態度ですな(笑)。

それに男の人って結果を重視しますよね。
この場合もトマスは「確かに逃げたけど、助かったんだからもういいじゃん」と思っている。でも女の人はそこから導き出される仮定を重視する。「もし助かっていなかったら?もしもっと危険な状況に遭遇したら?家族を置いて逃げるような自己中心的な男を父親として信用できるのか?こんな男とこれからも一緒にいられるのか?」と。
エバが林で用を足しながら一人涙を流したのは、そんな状況にある自分が惨めで情けない気持ちだったからだろうと思います。奔放女のように家族を裏切るなんてできない。でもこんな夫と居続けるのも我慢ならない。全てを投げ捨てたい、でもできない。多分何度もこういうこと考えたことあるんだろうなぁ…。うーんその気持ち、わからんでもないよ。

笑えたのはトマスたちと別れた後、この友人カップルの女の方が「あなたも自分だけ逃げそう」と言い出すところ。行きは超甘々ラブラブな二人だったのに、この一件で何だか微妙な雰囲気になるという。完全に飛び火してます(笑)。
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絵に描いたようなとばっちり。



子どもたちはなぜ怒らない?

この映画で不思議だったのは、子どもたちの描き方。雪崩の時、息子のハリーは何度も「パパ!パパ!」を連発していたくらいだからさぞ逃げ出した父親に怒っているだろうと思いきや、その事に関しては何も言わない。代わりに「ママと離婚しないで」なんて言い出す。娘は、反抗の矛先を何故か母親に向ける。この母と娘の地味に嫌な感じ、いいですねー。この監督性格悪そうっすねー(褒め言葉)。
子どもにとってはこの状況はただの「夫婦喧嘩」なんですね。せっかくの旅行なのに、またパパとママったら喧嘩して、やんなっちゃう。
で、旅行はもう終わろうとしているのに、全然仲直りしない。むしろ悪化してる…子どもたちはだんだん不安になる。
そして最終日の前夜、ついにパパがおかしくなった(笑)!めちゃくちゃ泣いてるー!!

子どもたちはそんなパパに寄りそってあげるわけです。ママドン引き。でもね、こういう時、娘はかわいい。ちゃんと「ママも来て!」って手を伸ばすんですよ。結局、「やれやれ…」と思いつつママもパパと子どもを抱きしめる…ていうか上に折り重なる。
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和解の象徴としてダンゴ状になる一家。なんか笑える。

ここでこの家族の序列がはっきりとします。そう、パパは末っ子だったんですね(笑)。でもそんなこと、とうの昔に子どもらはわかっていたんですよ。だから逃げ出したパパを責めないし、怒らない。子どもたち、大人やん!

ママもそんな子どもたちの気持ちを察したのでしょう。最終日にはママの自作自演(もしくはパパとの共謀)の遭難で父親としての威厳を取り戻させ(というか子どもも巻き込んだただの茶番…)、家族仲直り。めでたしめでたし…。



で、終わりじゃない!

この映画で好感が持てたのは、ラストにちゃんと妻側の「不可抗力」も描かれているところ。
これには思わずにんまりしてしまいましたね。
男は夫は愚鈍だと散々言っておきながら、いやいや、女も妻も同じでしょ、って話に持っていく。とてもフェア。なるほどなーやられたなー。
さっきは性格悪そうとか言ってごめん。意外と監督、根はいい人かもよ(笑)。


人工雪崩を発生させる爆破の音や選曲(ビバルディ「四季」の「夏」だそうです)、無人のリフトや無表情な清掃人など、映像には終始不穏さがつきまとう。友人カップルとの食事中、妻の顔をあえて映さない演出も不気味でいい。その辺りの居心地の悪さは、ハネケ映画の得意とするところ。また、夫婦が話せば話すほど離れていく感じは「ある結婚の風景」のよう。
でも、全体的にどことなくのどかなんだよね。いい意味で間が抜けている。牧歌的なハネケ、毒のないベルイマンとでもいいますか。
辛辣でありながら温和。達観しつつも悲観はしていない。リューベン・オストルンド氏、今後も注目したい監督です。





映画を観終わって、ふと思い出したのがこちらの小説。

アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること (新潮クレスト・ブックス)

アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること (新潮クレスト・ブックス)


表題の短編では、ユダヤ人の夫婦とその友達夫婦が「再びホロコーストが起きたら?」と仮定の話をはじめます。妻は夫を、夫は妻を見つめ、その時に今目の前にいる相手は自分をかくまってくれるだろうか、と思い巡らしてみる…というお話。
あなたの配偶者は…どうですか?