あらすじ
ゾンビ感染の広がる18世紀の英国。武術に長けたベネット家の姉妹たちも結婚を意識するお年頃に。舞踏会で長女ジェインは富豪のビングリーと出会い、二人は心惹かれ合う。一方、次女エリザベスは腕の立つ戦士であり大富豪でもあるダーシーと知り合うが、彼の傲慢な態度と心ない言葉に傷つき反感を覚える。事あるごとに反発し合うエリザベスとダーシーは、互いを意識しながらもプライドと偏見が邪魔をしてその思いはすれ違ってばかり。しかし、そんな二人の恋を尻目に、ゾンビと人類の最終戦争が近づきつつあった…。
最近は量産され過ぎでネタは尽きた感のあったゾンビ映画ですが、文芸路線とのコラボが残っていたとはね… 。中世ヨーロッパのコスチュームプレイにゾンビって!!よだれを通り越してもはや胸やけレベル(笑)。
一体どんなものやらと半ばビクビクしながら観てみれば…
めっちゃええやん!!
まず、衣装がいいよね。ヒラヒラしたドレスの裾を翻しながらゾンビをばったばったと切り倒すエリザベスたちは格好いい。何より舞踏会用ドレスに着替えるシーンが最高でした。キャッキャウフフしながらコルセットを装着して粧し込んでると思ったら…ガーターにめっちゃナイフ仕込んでるし!!っていうシーンが、すごく好きでした。
あと、ダーシーの黒いコートが革製なのもゾンビハンター!って感じで良かった。それからキャサリン夫人の眼帯。どこの中二病だ(笑)。
そんな衣装はもちろん、未亡人キャサリンの邸宅や荒野の教会などのロケーションも凝ってるし、「所詮ゾンビ映画だから〜」なんて手を抜かずに、真面目に真剣に作ろうとした姿勢に好感が持てます。
そう、この映画って音楽も絵面も終始「重厚」なんですよ、無駄に。もっとふざけて、コメディチックにすることも全然出来たと思うんです。面白い効果音や音楽つけるとか、場違いな小道具出すとか役者に変な演技させるとか。でも安易にそっちの方向に逃げずに、真摯にオースティン版へのリスペクトを持って作り上げている。そこに「ズレ」が入り込むことで、絶妙なおかしみを生み出しているんですね。
パンフレットにミスター・ベネット役のチャールズ・ダンスのコメントが載っていて、「我々はコメディにしようとはしなかった。真面目に演じてこそ最良のコメディだから」
とあったんです。まさしくそれ。
お話も、設定を借りた全くの別物かと思ってたらあまりに「高慢と偏見」だったんで、驚きました。なので元ネタである「高慢と偏見」は予習していった方が楽しめると思います。
わたしはゴリゴリの翻訳な岩波しか読んだことない(汗)のだけれど、新潮の新訳版が読みやすそうですねー。
時間のない方は映画で。キーラ・ナイトレイは古風なコスチュームが本当よく似合う。
とはいえオースティン版の予備知識がなくても楽しめるとは思います。当時の社会情勢(女性に相続権はない、上流階級の中でも所得で無言の序列があったなど)も映画の中でわかりやすく言及してくれるのでそこまで知っておく必要もないかな。
ただ、ゾンビ要素を期待して行くと、ちょっと物足りないかも…。血のりは少なめ、損壊描写はマイルドでグロさはないです。ゾンビたちも衣装が衣装なだけになんだか優雅で(笑)まったくおどろおどろしくない。
なのでゾンビに偏見のある人も、問題なく観られると思います〜。興味のある方は是非劇場へ!
わたしは未読の本作の原作。既読の友人に大体の話を聞いた程度。アメリカではまさかのベストセラー。
以下、便宜上こちらを「ゾンビ」、オースティンの「高慢と偏見」は「オリジナル」と呼ぶことにします。
以下ネタバレあり!
キャラや設定はほぼ「高慢と偏見」なんだけど、5分に一回は「なんでやねん」ってなる。
まず冒頭、「人の脳を食べたゾンビはもっと人の脳を求める」というナレーションから笑える。ここオリジナルだと「裕福な独身男性はより理想的な結婚相手を求める」なんだよね。
そしてプロローグ的にダーシーの活躍と英国のゾンビ蔓延について描かれ(紙芝居的な演出が素敵)、その後今作のヒロインであるベネット姉妹が登場します。
富豪が近所に引っ越してくるらしいわよ♡と色めき立っている姉妹たち(&母親)。話しながらみんな何しているかと言うと…銃のお手入れ!お前ら、年頃なら持つのは銃じゃなくて刺繍針にしておけ(笑)!
この、「みんなで輪になってキャッキャウフフしながら銃の手入れをする」というシーンは何度かあり、かなりシュールです。
そして、極めつけは姉妹が全力でカンフーしながら恋バナするシーン。お互いに顔面、ボディ問わずガンガン打ちまくる。お前ら、年頃ならもうちょっと体を大事にしろ(笑)!
この映画の世界では、ゾンビ撃退のために武術を嗜むのは紳士淑女のたしなみとなっているという設定なのですが、どう見てもベネット家の娘らはやり過ぎ。
それはミスター・ベネットが「結婚よりも生き延びる方が大事」と考え、娘らに過酷な修行を与えたからなんですね。けれど母親であるミセス・ベネットは「さっさと娘をお金持ちと結婚させたい」というオリジナルまんまの俗物。
そうそう、このミセス・ベネットってキャラがわたしは大嫌い(笑)なんですが、本作では不思議なことにお茶目に見えて結構好きでしたねー。
さて、そんな金持ちのビングリー家とお近づきになろうと姉妹たちは舞踏会へやってきた。フトモモにたくさんのナイフを忍ばせて…。
そこへまさかのゾンビ襲来〜!5人姉妹はペンタグラムフォーメーションでゾンビを迎え撃つ!!
そのあまりの強さと戦闘スタイルに、さっきまで「顔はまあまあだけど身分が合わない」的に次女エリザベスを見下していたダーシーも思わず見とれてしまう。その時の一言が、「筋肉に女らしさを感じる」…ねぇ、バカなの?
キャラクターで言えば、一番笑わせてもらったのはコリンズですね。途中から顔が映るだけで場内が沸いてました。スコーンスコーンうるさいんじゃ(笑)、お前はコイケヤか。ちなみに「ゾンビ」ではかわいそうな目に合うらしいんだけど、映画では最後まで生き残り、リジー&ジェインの結婚式の牧師を務め、やはり笑かしてくれる。
ゾンビと結婚、どっちが大事⁉︎そりゃあやっぱ結婚でしょ!
ことあるごとに顔を合わせることになるエリザベスとダーシー。二人ともお互い意識しまくりなのに、会えば会うほどその溝は深まるばかり。
知り合った軍人のウィカムへの仕打ちや、長女ジェインとビングリーの仲を引き裂いたのがダーシーだと聞き、怒り心頭。エリザベスはますますダーシーに不信感を持つように。
そしてやって来るのが、オリジナルでもハイライトとなるダーシーの一回目のプロポーズのシーンですよ。
オリジナル通りエリザベスは断るわけですが、なぜかこの時、二人は格闘してます。思惑なく弾け飛ぶボタン、繰り出されるふくらはぎ締め。え、お前ら何やってんの⁉︎ですよ(笑)。
まぁ、なんていうか、じゃれ合っているようにしか見えないんですけどね〜。こちらとしてはいいから早くくっついちゃえよ!って気分。
一世一代のプロポーズを断られたダーシーは、彼女の誤解を解こうとエリザベスに手紙を書きます。その手紙を読みながら、自分の浅はかさを知り、またダーシーへの思いを強くしたエリザベスは、はらはらと涙を流す…。エリザベスが自分の偏見を自覚する名場面のはず。ですが、手紙の文末には不穏な言葉が。
「ゾンビはますます勢力を増している。準備をしておいて下さい」ーーあぁーん、いいシーンが台無しやーん(笑)!!
とまぁ、終始こんな感じでオリジナルに忠実なのにいきなりトンデモをぶち込んで来るので油断できないのです。
けれど終盤、リディアがウィカムと駆け落ちする件が出てきた時は「あれ、これもオリジナル通り?」なんて思っていたら、そこからは一気にゾンビ展開に。
実はすでにゾンビに感染していたウィカム。ダーシーへの復讐心からゾンビのリーダーとなり、人類を滅ぼそうとしていたのです…絶体絶命のダーシー!その前に白馬に乗って颯爽と現れたるエリザベス!
二人は命からがらゾンビを振り切り、なんとか助かります。そしてダーシーの再プロポーズを快諾したエリザベスは、みんなに祝福されながらジェイン&ビングリーと共に結婚式を挙げたのでした〜。メデタシメデタシ。
やっぱりゾンビより色恋沙汰の方が大事ってことよね〜。
ゾンビ=当時の女性への圧力の可視化?
まぁ、突っ込みたいところはいろいろあって、「日本に修行って、その頃まだ日本鎖国してるだろ」とか、「ゾンビに人間の脳食べさせないほうが早く逃げ切れたのでは?」とか「キャサリンの娘との婚約はどうなったんだ」とか「もっとゾンビと闘わせろ!」とか…。
あと、わたしは森でジェインは母子ゾンビに感染させられていて、実はそこからベネット一家もゾンビになっていた(母親がエリザベスを噛むシーンがあったし)んだけど、みんな結婚とか恋愛とかに気を取られていたからゾンビ化しておらず、「ゾンビに勝てるのは愛なんだ!」…っていうオチになるのかと思ってたんですけど、全くの見当違いでした(笑)。
それからすんごい深読みすると、本作でのゾンビって多分、当時の女性に対する「空気」を可視化したものなんじゃないか、と思ったんですよね。それこそ結婚への圧力だったり、家族のしがらみだったり、法律や権力の理不尽さだったり…。そうした見えない抑圧=ゾンビを切り倒し、自分の意思を貫こうとした女性のラブストーリーだったのでは、と。その辺りはオリジナルにもあった精神性だと思うので、本作がただのゲテモノパロディで終わっていない所ではあるのかなと感じました。
うーん、でもあんまり難しく考えずにコスプレゾンビを楽しむのが見方としては正解だと思います!!
サム・ライリー版のダーシーも特徴的なダミ声が愛嬌あってよかったんだけど、まぁなんだかんだ言ってコリン・ファースのダーシーが一番好きなんだな。彼が同名のダーシーを演じる「プリジット・ジョーンズ」自体が「高慢と偏見」を下敷きにしているのは有名な話。そろそろ新作公開されますねー。
最近のラブ路線?のゾンビ物。主役はデイン・デハーン。
本作も最後はこの映画みたいな感じになるのかなーと思ってました。
最近観たゾンビと言えばコレ。えぇと、タイトルにある通りわたくしまだ妊婦ですけどね(笑)またゾンビ観ちゃったね。大丈夫か我が子よ…。
作品情報
- 監督 バー・スティアーズ
- 製作総指揮 スー・ベイドン=パウエル、エドワード・H・ハム・Jr、エイリーン・ケシシアン、ニック・マイヤー、キンバリー・フォックス
- 原作 ジェーン・オースティン『高慢と偏見』、セス・グレアム=スミス『高慢と偏見とゾンビ』
- 脚本 バー・スティアーズ
- 音楽 フェルナンド・ベラスケス
- 原題 PRIDE + PREJUDICE + ZOMBIES
- 製作年 2016年
- 製作国 ・地域 アメリカ
- 出演 リリー・ジェームズ、サム・ライリー、ジャック・ヒューストン、ベラ・ヒースコート