ファンタスティック映画主婦

専業主婦の専業主婦による専業主婦のためにはならない映画ブログ。考察などとは無縁の感想文は基本ネタバレ。独断と偏見による☆評価 満点は★5 (2017年4月「苺チョコレートをまるかじり」よりタイトル変更しました )

マジカル・ガールーー少女は、呪詛の言葉で男を動かす。★★★☆(3.4)

マジカル・ガール(字幕版)

 

 

あらすじ

失業中の元教師ルイスは、12歳の娘アリシア白血病で幼いながらに余命幾ばくもないことを知り愕然とする。死を前にした娘の願いを全て叶えてやりたいルイスは、アリシアが「魔法少女ユキコ」の一点物の高額なコスチュームを欲しがっていることを知って、何とかお金を工面しようと決意する。そんな矢先、ひょんな事から精神的に不安定な人妻バルバラと出会い、一夜を共にする。ルイスは「夫に関係をばらす」とバルバラを強請り、大金をせしめようと画策するが…。

 

 

 

本当は公開中に観に行きたかったんですが、いかんせん都内といえど交通網が不便なところに住んでいるもので、よほどでないとミニシアター系には足を運べないのです。今作も公開当時評判がよかったので、レンタルが始まるのを楽しみにしていました!

 

感想は…かな~り、嫌~な映画でしたよ…。 

なんていうのかな、「人を不快にさせるツボ」をピンポイントで押してくるというか。とにかく、撮り方が巧いんですよ。あえて見せない映さない…と油断させておいていきなりどーんと来る。

 

監督は今作で長編デビューのスペインの新鋭カルロス・べルムト。日本の文化やアニメが好きらしく、今作も「魔法少女まどか・マギカ」からインスパイアされ作られたとのこと。「願い事を叶えるために代償を払う」という理不尽感や、暗く重い後味の悪さは通じるものがあるかも。

少女アリシアが日本の魔法少女アニメが好きで(テーマ曲が長山洋子のアイドル時代の歌…)、友だち間で日本語のあだ名を付けあっていると言うのが微笑ましかったです。

他にも人妻バルバラが飲んでいたお酒のラベルが「sailor moon」だったり、折り鶴柄の銘仙(?  だと思う)を羽織っていたり、日本要素の取り入れ方が自然で嫌味がないのも好印象。

 

「始まりが善意であっても、手段が悪意なら結果は悲劇にしかならない」という話なのかな。誰かがボタンを正しくかけ直していれば。もしくはどこかで掛け間違ったことに気が付いていれば…。なかなか辛辣で皮肉に溢れた秀作です。

 「マジカル・ガール」☆彡なんてキラキラしたタイトルに騙されちゃだめよ。

 

 

 

 

以下ネタバレ。 

 

 

 

 

 

 

漂う魔術感。それは呪いか、福音か…。

この映画、端的に言ってしまうとファム・ファタールモノなんですよね。女に運命を狂わされる男、的な。ただ、それが今作の場合は「いたいけな女の子」なんです。

父親ルイスにとっての娘アリシアであり、ダニエルにとっては幼い頃のバルバラである、と。そこに意図や思惑のあるなしは関係なく、そこに、たまたま女の子の願い事を叶えようとする男がいただけ。そして、その願いの代償を払わされることになるのも女の子なのだ。

 

「言霊」なんて考え方がありますけど、本来、「ことば」そのものそれ自体が大きな力を持つわけではない。それを発するものと受け取る側の関係性こそ重要なのだろうと思うのです。

この映画は、そんな言葉の力が暴走してしまうお話だとわたしは感じました。

 

少女アリシアは「お願いごとノート」に魔法少女のコスチュームが欲しいと書いたけれど、彼女はそれが高額なことも知らない(知っていたかもしれないけど、その価値は多分わかっていない…お金のことなんて普通の子どもは大抵頓着しない)し、まして父親に読まれるとも考えていなかったはず。

でも実はこの願望、コスチューム云々は大して重要ではなく、その後の「13歳になりたい」というアリシアの本音の言葉が書かれてあってこそ成立する「呪文」だったのかなぁ、と。父親は多分「コスチュームが欲しい」だけではきっと動かなかっただろうと思うんですよね。

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でも本当の願い(=ラジオ)は聞いてもらえなかったというのがなんとも皮肉です。

そしてもう一つ重要なのが、「娘と父親」という関係性。これが息子と父親だったり、娘(息子)と母親であったのならば、この映画は成立しない。言葉の力と互いの関係性の相乗効果が思わぬ悲劇を生む。

 

そしてこの親子以外にもうひと組、言葉の力を誤って使ってしまった女と受け取ってしまった男、バルバラとダニエルがいる。二人がどんな過去を共有しているのか、はっきりとわかる描写はない。 けれども、バルバラがダニエルを「守護天使」と呼でいることから二人が何らかの共犯関係にあるのでは、と推察できます。

二人が実は冒頭に出てくる教師と女子生徒だとわかるのは映画の後半になってからなので、あの序盤のエピソードがこの映画の「注:イメージ映像です」なのかと思っていたのでちょっと面食らった…。

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ぼんやりスルーして観ていたら、実は結構重要なシーンだったのでした。 

 

この二人のやりとりに出て来た「悪口を書いたメモ」やアリシアの「願いごとノート」もそうなんだけど、この映画に出てくる小道具の数々がどうも魔術的な側面を持って繰り出されている気がしてならない。

父親ルイスが古書店の前で拾うジグソーパズルのピース→実はダニエルのもので最後の1ピースだった=そのピースの喪失がある意味ダニエルを凶行に走らせたのでは?

鏡によるバルバラの額の傷=魔力の放出、もしくは第三の目の出現を暗示?

バルバラが大金を稼ぐ部屋のキーワード(呪文)が「ブリキ」→ブリキ(人間)は表面(皮膚)を傷つけると中の鉄の腐食が一気に進む(血が噴き出す)、と言うことか…?

トカゲ部屋には呪文がない=魔法を封じられた魔女の「審判の場」?

…などなど、とにかくいろいろ、深読みすることができそうです。それにしても、ただの白紙のカードにぞっとしたのは初めてでしたよ。

それから、バルバラが夫の友人夫婦の赤ん坊を抱っこし「窓から落としたらどんな顔するかと思って」と一人で大ウケするのも、なんだか呪いみたいで恐ろしかった…。それはバルバラが病んでいることの証明でもあるのだけれど、彼女の中にある魔女的な邪悪さを見せられたような気がしました。

 

 

見せる、見せない

前述しましたが、この映画が絶妙なのは見せる演出と見せない演出が実に巧みであるところ。

それは視覚的にもそうですが、バルバラとダニエルの過去、バルバラと売春の元締めの女との関係、またアリシアの母親についてなど、割と重要じゃない?と思えるような事柄について、説明されることは一切ないのです。

観客はそれらを想像しながら観ることになるのですが、なんでもかんでも言及してくれる親切な映画に観慣れている人はもしかしたら難解に感じてしまうところもあるかもしれません。ですが映画好きな人はおそらく、この「見せない」にぞくぞくしちゃうと思います。

 

だからこそ、この「見せない」が破られて、「見せられた」時の衝撃は本当驚きでなんですね。

例えば、おもむろにバルバラが服を脱ぐと、体中には無数の傷があり…。

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裸体に銘仙、本来なら色っぽい格好のはずなのに…黒衣の魔女のようでもありますね。

 

このワンシーンで、彼女がこれまで何をしてきたのか、そしてこれから何が行われようとしているのかが一遍にわかる。そしてその禍々しさに背筋が凍る。

 

また、「トカゲ部屋」から出てきたバルバラの姿は一切映さない(血のついた袖ぐりはちらっと映る)けれど、病院のシーンで治療後の彼女が包帯ぐるぐる巻きになっているのを映すことで、観客が「妄想する余地」を見事に残しているんですよね。勝手にすんごい拷問を思いついて、一人で痛がったりすることもできるという(笑)。

終盤ダニエルが発砲する時しっかりとルイスを映していたのもちょっとびくっとしました。

 

 

呪文を失った魔女と代償を払わされる魔法少女

ルイスは大金を手にし(もちろんバルバラがどんな手を使って稼いだのかは知る由もない)、アリシアへコスチューム一式をプレゼントすることができました。

重傷を負ったバルバラは、ダニエルと再会し「ある男(=ルイス)にやられた」と嘘(あながち嘘でもないが)をつきます。ダニエルは地道にコツコツ作り上げてきたパズルを壊し、銃を手にルイスの元を訪れるのです。

ダニエルはルイスからことの顛末(もとはバルバラの不貞が原因)を聞くもルイスを射殺。浮気の証拠である携帯電話を奪うためルイス宅を訪れたダニエルが見たものは…。

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一人の魔法少女だった!

強い目力で、ダニエルと対峙するアリシア。その目には怖れも後悔もない。その目を見据えたまま、引き金を引くダニエル。その時彼の心に去来していたものは一体…。

ダニエルは、バルバラに全て終わったことを告げる。けれど証拠の携帯を彼女に渡すことはせず、かつて彼女にされたのと同じ方法で携帯電話を消してしまう。ここに二人の共犯関係の終わりを見るべきか、役割の逆転として男側の復讐を見るべきか?

どちらにせよ、もうバルバラが呪文を使うことー言葉の力を使って誰かを傷つけることも、傷つけられることも、もうないだろうと思うのです。

誰かの願いが叶う時、誰かがその代償を払っているのかもしれない。そんな円環に人は組み込まれていて、その中心には悪意を持った魔女がいるのかも…。けれどもわたしとしては、魔法=magicは善的な願いを叶えるものとして存在して欲しいなと思うのですけどね。

  

 

とまぁいろいろ書きましたが、やはり、最後に何の罪もないアリシアちゃんが殺されたのは「ひどい!ひどすぎる!」としか思えなかった(着替えてパパを驚かせようと待っていたアリシアの気持ちを思うと泣けてくる…)ので、映画としては面白く観れましたが、好みで言うと「あんまり好きじゃない…」って感じかなぁ〜。

でもこれが初長編監督作と言うのは本当に驚き。カルロス氏、次回作も期待しちゃいます!

 

同じ日本通の監督の作品ならわたしはこっちの方が好きです。

minmin70.hatenablog.com