ファンタスティック映画主婦

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ハクソー・リッジーー戦場での死に、価値はない。★★★★(4.0)

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あらすじ

 「良心的兵役拒否者」としてはじめて名誉勲章を授与されたデズモンド・ドスの実話を元に、第二次世界大戦時、激戦を極めた沖縄戦ハクソー・リッジ(前田高地)での戦いと彼の活躍を描く。

 幼い頃、弟に大怪我を負わせた経験から「汝殺すなかれ」の教えを信念とするデズモンド(アンドリュー・ガーフィールド)。友人や弟が次々に出征する中、デズモンドも軍隊に志願する。人を殺さずとも、衛生兵としてなら国に貢献できると考えたからだった。しかし現実はそう甘くはなく…。

 

 

 

 

 メルギブの云々に関してわたしは語れることがないので他にお任せしますが(投げやり!)、本作を撮ったことに対しては素直に拍手を送りたい気持ちです。評判に違わずすごい映画でした。

 

 話の展開は丁寧でわかりやすいし、奇をてらったような演出もなく、キャラクター造形もベタというか基本に忠実というか、比べるのもどうかと思うけど、今年公開された『ダンケルク』なんかより全然観やすいです。   

 「殺すなかれ」を心に決める子ども時代の導入部から、成長して運命の女性ドロシーとの出会い、入隊と銃訓練拒否への反感、軍法会議を経て戦場へと向かう話運びも要所を押さえていて無駄がない。序盤に、トラウマであるレンガとベルトが人助けの道具となるという小道具使いも、さり気なくて気がきいてました。

 

 しかし、何よりも特筆すべきは後半の戦場描写でしょう。壮絶で凄惨な描写がこれでもかと言うくらいのしつこさで続きます。飛び散る四肢、爆ぜる臓物の醸す虚しさに、思わず涙がこぼれました。本来ならばこの若者たちは、こんなところでだらしなく腹わたを漏れ出させて死んだりせずに、子や孫に囲まれて静かに看取られて死んでもよかったはずなのに…。戦場という場所の、あまりの生産性のなさ。そこで主人公デズモンドが一人奔走するわけですが、その必死さが痛々しくて切なくなります。

 塚本晋也 『野火』を観た時も思ったのですが、「戦場での死ほど無駄なものはない」と言われているような気がしました。人によっては目を覆いたくなるかもしれませんが、最後まで目をそらさずに観て欲しいと思います。

 

 

 

以下ネタバレあり。

 

 

 

アンドリューの好演!でもわたしのお気に入りは…

 本作の主人公、デズモンド・ドスを演じたのはアンドリュー・ガーフィールドです。

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 今年はスコセッシの 『沈黙』でも「信念を貫く男」を演じていましたが、あちらのロドリゴ役はわたしが原作厨だったこともあって、彼はどうも合ってないように思えてしまって「全然ダメ!ハイ次っ!」って感じだったのですが(笑)、本作のデズモンド役は彼の良さが引き出されていたように思います。

 「医者になりたかったけど学校に行けなかった」とのセリフもあったことから、デズモンドはエリートではないこともあってか、ちょっと危なっかしいところがあるんですよ(デイジーとのやりとりを見ればわかる)。頼りなくて、どこか守ってあげたくなるような…母性本能をくすぐられる感じね。アンドリューはそういう、ちょっといい意味で間の抜けた役柄を、ナチュラルに演じられる役者さんだと思いますよ。

 でもね、映画の最後にあった、当時や晩年のご本人の映像を見ると、実際のデズモンドさんは映画と違ってまともそうでした(なんとなく方々に失礼な文章…)。意外と「銃の訓練拒否します!」って言っても受けいれてもらえそうに見えたけど…。

 

 とはいえ、わたしが大好きだったのは、デズモンドをいじめる同僚兵士のスミティ!!

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演じているのは『Xミッション』のルーク・ブレイシー。ヤバーい超カッコいいー!

 最初の訓練の時から、できるデズモンドを敵視して、「人殺したくありません、銃持ちたくありません!」とかデズモンドが言い出したらここぞとばかりにイジメる(笑)。

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オラオラ、殴り返して来いよ〜ってなにこのテンプレキャラ!

 で、袋叩きに合ったデズモンドがやった相手を上官にチクらずに「寝相が悪いんで」って言うとちょっと見直して、最終的には戦場で主人公お助けポジションに。こういうキャラ好き好き〜!!

 思えば、全裸見せびらかし野郎とか仲間の兵士、みんないい奴だったな…。

 あと、父親役のヒューゴ・ウィービングも素敵だった!

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 このシーン、父親に感情移入して観るとほんと辛い。息子を戦場に行かせたくない、でも息子の気持ちも汲んでやりたい。その葛藤の中で、本来ならば二度と見たくもなかっただろうかつての軍服を着て陳情する。二重の苦しみを、この父親は味わっていたんだと思います。

 

 

後半の戦闘シーンがとにかくすごい!

 さて、そんなデズモンドが紆余曲折を経てやっとこさ派遣されたのは激戦地沖縄、前田高地。通称ハクソーリッジ。

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 げ、まじここ登るのー!!

 ここに来るまでに軍用トラックとすれ違い、そこに折り重なって乗せられたケガ人や死体を散々見せられてからの、この崖ですよ。みんな(´Д` )うそーんって顔になってたと思う。

 ちなみに、実際のハクソーリッジはこんな感じらしいです。

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アラ、ちょっと盛りすぎ?でも、彼らの心情的には映画のように見えたんじゃないかとは思うよね、きっと。上に見える人影がデズモンド・ドスさんご本人だそうです。File:Doss Maeda.jpg - Wikimedia Commonsより拝借)

 

 みんなしてえっちらおっちら崖を登りきると、そこに広がっていたのは阿鼻叫喚の地獄。転がる死屍累々、死体に群がる肥えたねずみたち。砲弾、銃声、どこからともなく現れる日本兵。立ち上る死の臭い。

 無慈悲に殺されていく兵士を延々と映していることで、あたかも彼らが「無駄死に」だと言われているように思えてきます。

 誤解のないように言いますと、戦場で亡くなられた方たちが戦った証、生の部分に関してはおそらく価値はあったし意味もあると思います。でもね、戦争がなければ彼らは死なずに済んだのです。いずれ子や孫が生まれて、愛する人に見守られながら死ぬことができたはずなんですね。だから、戦場での死に関しては何の価値もないし、意味もない。

 

 それを思うと、デズモンドがただひたすらに「あと一人、もう一人」とまるで取り憑かれたように人命救助をする様は(中には日本人も含まれていました)、はっきり言って異様な光景です。
 逃げ惑うでもなく、戦うでもなく、人を救うために戦場を奔走する。彼の努力を見れば見るほど、この労力はもっと違う場所で生かされるべきだったのではないかという思いが強くなります。

 最後、デズモンドは味方に投げられた手榴弾を蹴り上げ、爆発に巻き込まれて怪我を負います(ここで冒頭につながる)。担架に乗せられてハクソー・リッジから運び出される彼には空からの光が降り注ぎ、まるで救世主=キリストを彷彿させるような演出がなされていましたが、デズモンドはただの人。キリストのように犠牲になることはなく、天寿を全うし2006年に亡くなりました。

 デズモンドを神格化したくなる気持ちは理解できますし、彼の偉業は語り継ぐべきでしょう。この映画から、このような人物がいたこと、命の尊さ、信念を押し通すことの崇高さを学ぶことは容易いです。
ですがわたしたちはもう一歩進んで、 あの場で亡くなったアメリカ人日本人含め、多くの人々の「生」にこそ思いを馳せるべきなのかもしれないなぁ、と思いました。

とにかくね、戦場描写は一見の価値ありですので是非に!おすすめです。