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雑食つまみ食い系映画感想ブログ

カメラを止めるな!【映画・ネタバレ感想】映画作りは大変だ。でも、映画作りはとっっっても楽しい!★★★★(4.0)

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あらすじ

廃工場でゾンビ映画を撮る撮影クルー。しかしそこへ、本物のゾンビが現れた⁉︎頻発するトラブル、混乱する役者たち、暴走する監督…でも、カメラは止めない!絶対に!

 

 

  昨年末に限定上映のアナウンスがあってからずーっと気になっていた本作。6月に本公開がはじまったけれど、公開館も少ないし多分観に行けないだろうな~と、思っていたら!

  あっという間に話題となり、あれよあれよと回数増加、拡大公開。おかげさまで専業主婦のおばちゃんも観に行くことができました~。ありがとう口コミ!

  もうね、めちゃくちゃ笑いました。これは確かに、話題になるだけのことはあります。ほんと!楽しかった!満席の劇場で思う存分大笑い。終了後は自然と拍手が起こってましたね(わたしも思わずパチパチしちゃった)。

 

  いろいろな媒体で言われていますが、本作はクラウドファンディングなどで集められた制作費300万円で作られた低予算映画なんだそうです。キャストの方々もほとんどがオーディションで選ばれた無名の役者さんたち。ワークショップを通して作られた本作の脚本は当て書きだそうで、そのおかげか、本作は物語の面白さももちろんなのですが、何よりもこのキャストさんたちのキャラクターにその魅力があると思います。皆それぞれにポンコツで非常に面白いんです。

  涙は目薬・二言目には「よろしくでーす」なアイドル女優、アル中、胃腸虚弱、スイッチ入っちゃうポンな元女優…それぞれがそれぞれにケミストリーが起こって大爆笑。グワ~っと盛り上がってラストは感動のフィナーレ…なんとこの映画、最後は泣けちゃうんです。びっくり。大人の○○○に泣けるなんて、はじめての体験でした…。  

  パンフにも監督が今回のキャストをオーディションで選んだ理由が書かれていて、

選んだ基準は「不器用な人」。どんな物語を作るにせよ不器用な人達を撮りたかった。(中略)キャストは皆くせ者揃い。

  とあって、本作はそんな「不器用な人」たちがおかしくて、でもちょっと愛おしくなる映画でした。

 

  あ、あと、映画観た後すぐ迷わずパンフレット買っちゃったんだけど、持った感じで「この紙質で800円は高かったか…」と、一瞬後悔しかけたんだけど、決定稿(台本)が載ってるし、キャスト&スタッフと監督の座談会、舞台裏の舞台裏がわかる制作日誌があったりして、すごく楽しめました。何より最初のページの上田監督のコメントに感動。買ってよかったです!

f:id:minmin70:20180801211643j:image本作が気に入った方は是非購入をおすすめします〜

  今週末からまた公開館が増えるらしいので、もしまだ観てない人は時間を作って是非観に行ってください。ネタバレは、厳禁なので!(予告編も公式サイトも観ない方がいいです)

このポンデミックを見逃すな!

 

ポン!( ˆoˆ )/

 

 

 

 

以下ネタバレ。

 

 

 

 

 

入れ子構造の「種明かし映画」

   実はこの映画、「37分ワンカットのゾンビドラマ番組」を「撮影している映画」という劇中劇の"入れ子構造"になっているんです(しかも、ワンカットゾンビ自体が「自主制作のゾンビ映画を撮影している」という映画内映画設定があるので実際は三重構造)。要するに映画内映画を撮る人たちの「舞台裏(バックステージ)映画」なんです。前半に完成した「37分ワンカットのゾンビドラマ」(タイトルは「ONE CUT OF THE DEAD」笑!)を観せて、後半で「実はこんな風に作られてたんですよ〜」とネタバラシする構成になっています。

  わたしはこういうのを「種明かし映画」って呼んでるんですが、これ系の映画で真っ先に思い浮かんだのは内田けんじ監督。この人も別の視点から見ると「実は」こうなってました〜、って言う話をよく作るよね。舞台裏という内容で言えば三谷幸喜の『ラヂオの時間』なんかもそうですね。

  こういう映画の醍醐味は、"表"の時の「違和感」と"裏"の時の「実は」が合致した時の絶妙な面白さなんですよね。それがパズルのピースがカチッとハマる時のような気持ちよさがある。本作も、前半のワンカットゾンビは「うわぁ、ずっとこんな感じだとしたら無理だわぁ…」って思うような出来具合で、でもそれはすべて計算で。後半はずっとそれらの違和感を回収していく「種明かし」のオンパレードなんですね。「あ、監督マジでキレてたんだわ笑笑」「音声担当腹下してたのかよ!」「ゲロってマジのやつだったのかよ!」「アレはカンペだったのかよ!」と、種明かしがされていく様が愉快爽快おいマジかい!で超楽しいです。

  それが起こるたびに場内はドッカンドッカン爆笑の渦。ギャグとかネタとかではなくて、こういう「おかしみ」で笑わせるのは日本映画の妙ですよね。キャラ設定の細かい部分(硬水がダメとかアル中とか護身術とか)が「実は」に繋がってて、ほんとに上手い。

  あと、映画の小ネタ?みたいなのも散りばめられてて、例えば女優役の逢花の白タンクトップ姿なんて洋画ホラーあるあるだし、「ONE CUT OF THE DEAD」のラストシーンは『エコエコアザラク』を彷彿とさせます。映画詳しい人はきっともっと楽しめるよね。

 

 

監督って大変だ!

  大きく言っちゃえば、映画内映画「ONE CUT OF THE DEAD」では、ひたすら暴走しているようにしか見えていなかった監督が、実は一番苦労してて、暴走しているのは役者の方だったというのが一番の種明かし。

  役者が揃わない、酒飲んで倒れる、下痢で離脱しようとする、演技が暴走する、カメラマンが転ぶ…トラブル続きでも、監督はカメラを止められない。監督だからという責任もあるけど、何より、監督の日暮はずっと妥協してこの仕事をやってきたような人間で、多分「今回こそは本物をやろう!」と思ったんじゃないでしょうか。序盤で逢花に言った「本物をくれよ、本物を!〜(略)〜お前の人生嘘ばっかりだからなんだよ!」は逢花への苛立ち(笑)ももちろんあるんでしょうが、自分への思いも込められていたんじゃないかと思います。

  でも最後まで見ると、もしかしたら「娘にいい所見せたい」それがカメラを止めなかった一番の理由だったのかもしれないなぁ、なんてね。本作は親子の映画でもあるんですよね。

f:id:minmin70:20180801234608j:image(C)ENBUゼミナール「撮影は続ける!カメラは止めない!」このカメラ目線、二度目の時はすごくカッコよく見えます!

  

 

大人の夏休みという奇跡の映画

  とはいえ、こういった舞台裏・種明かし映画自体は珍しいものではないし、この構造そのものが凄いという訳ではないんです。

  わたしがこの映画で一番好きだったのは、「この映画を作っている人たちは、きっとすごく楽しかったんだろうな」と肌で感じられたところです。この映画から伝わってくるのは「映画を作るのって、いろんな人が必要で本当に大変で、でもでも、すっごく楽しいんだ!」というポジティブな想いだったんですよね。

 大の大人たちが、大真面目に、大嘘をつくために一丸となる。それが映画なんですよね。

  それって側から見てみれば確かにバカバカしくて滑稽なんだけど、その一途さは何物にも変えられない「本物」です。その一生懸命な「本物」にこそ価値があるし、それがきっと人の心を打つんです。わたしがあの組体操を見て胸を打たれたのは、そこに「本物」があったから。

  パンフで監督は

  この映画は計算してつくったフィクションであると同時に、あの夏の僕らの挑戦が映ったドキュメンタリーでもあるのだ。

  と言っています。「あの夏の僕らの挑戦」…なんだか大人が全力で夏休みしてる、みたいな笑。

 

  何度もリハーサルを重ねテイクを重ね、録画が途中で消えたり、組体操が本番まで一度も成功しなかったり、度重なるアクシデントの末に生まれた本作は、たった一度きりの「奇跡の時間」なのかもしれません。(血糊がレンズにかかる迫真のシーンも実は演出ではなくガチのトラブルだったそうです)

  そう、きっとどんな映画も(それが駄作であっても)、そこには「大人たちの本物」が詰まってるんですよね。なんか、そんなことを考えたら、「映画って本当にいいなぁ」…なんて目頭が熱くなりました。

  

 

最後に思うこと

 てんやわんやでなんとか番組を終えたキャスト&スタッフたちでしたが、超テキトーなプロデューサーからは「トラブルがなくてよかったです〜」なんて言われちゃうんですね。

  これってどんなに苦労して頑張っても、上の人にはわかってもらえないって皮肉だし、結局は消費される対象でしかない悲しみなんだよね。もちろん、「(お前らには何もわからねぇだろうが)俺たちはやってやったんだぜ!」っていう下の人間の優越感でもあるんだけど。

  そういう意味で下克上的な爽快感はないから、若干モヤるところはあるんです。こうやって映画がヒットして、公開が拡大してっているのを見ると、どうかこの映画に携わった人たちにその富と名声がしっかり分配されることを願わずにはいられません。大資本だけが甘い汁を吸って終わることがないように!よろしくt○h○さん!(…って隠れてないっ!笑笑)

 

 

 

作品情報
  • 監督 上田慎一郎
  • 脚本 上田慎一郎
  • 製作年 2018年
  • 製作国・地域 日本
  • 出演 濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学