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ぼぎわんが、来る【本・ネタバレ感想】12月公開映画『来る』原作 家族という呪いと心の闇が連鎖する、超怖民間伝承ホラー!

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ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)

 

 

 

あらすじ

30代の会社員・田原秀樹は、妻香奈と娘知紗と幸せに暮らしながらも、家族を狙うこの世ならざるものの存在を感じていた。その正体が、幼い頃遭遇した、祖父の故郷に伝わる「ぼぎわん」なのではないかと思うようになる。秀樹は民俗学者の唐草、オカルトライターの野崎、霊媒師の比嘉姉妹の助けを借りて「ぼぎわん」から妻と娘を守ろうと奔走するが…

 

 

12月7日に公開される、中島哲也監督、岡田准一、妻夫木聡、松たか子、小松菜奈、黒木華ら出演の映画『来る』の原作小説です。

映画公開のアナウンスがあってから非常に興味を持ちまして(特に公式のあらすじにある「全国から猛者たちを次々と召集」という部分に)、たまたま近くの図書館に蔵書があったので借りてきました。

 

予告編とあらすじ見た感じだと、妻夫木の娘が得体の知れない怪異に取り憑かれてるっぽくて、「日本中の猛者」的な霊能力者たちが挑むんだけど敵の方があまりに強いから次々に返り討ちに遭う、みたいな話?とか思って、なんとなくだけど、中島らもの『ガダラの豚』を思い出しました。

なんで、ホラー風味な霊能力バトル!みたいな話なんかなぁ〜と勝手に思い込んで読み始めたら…

 

もう、めちゃくちゃ怖かったです。

 

あのね、タイトルにある「ぼぎわん」がほんと怖いの。姿も、やることも凶悪。しかも強くて執念深い。でも、なぜそうなってしまったのか…というところに日本という風土の闇みたいなものが垣間見えて、ただ怖いだけじゃない奥深さも感じました。妖怪の一種のような描かれ方をしているんだけど、お化けとか霊とか怪異全体の総称とも言えるんじゃないかなと思います。

「ぼぎわん」に関しては、日本のいろんな伝承・伝説のエッセンスを感じますが、小説内に出てくる文献なんかも含めて、全て作者の澤村伊智さんの創作だそうです。呼び名の由来もユニークで、既出の物語を違和感なく自分の虚構に組み込む手法もお見事。澤村さんはなんとこれがデビュー作だったんですね。すごく面白かった。わたしは改行の多い文体ってちょっと苦手なんですが、それでも引き込まれるように読みました。

 

三章に分かれていて、それぞれ語り手が違う構成もうまく効いていて、同じ事柄でも視点が変わることで全く違う様相を見せるんですね。それによって人間の闇深さや無意識の悪意が浮き彫りになって、それこそが「ぼぎわん」という恐怖対象の恐ろしさを際立たせます。

第一章のラストである人物が酷い死に方をするんですが、「えぇ〜!」って思って第二章を読み進めていたら、「いや、アイツは死んでよかった!」みたいな気持ちになって、読んでるこちら側の悪意も浮き彫りに笑。第二章はもうずっと「うわぁぁ〜」って頭抱えて共感と嫌悪感の嵐でした。名刺ェ…

 

ただ、公式サイトやなんかを見てると話は大分変更されているように感じるので、この原作をそのまま映画化するわけではないのかなぁという気もします。とはいえ、夫婦の溝だったり家族の闇だったり恨みや妬みや人の業、みたいなものが抜けてしまうと原作の魅力が損なわれてしまうと思うので、そこはちゃんと描いて欲しいなと思います。「子ども」に関しての部分は特に。

でも、公式サイトで真琴の仕事が「キャバ嬢」に改変されてたり、香奈が「育児ノイローゼ気味のお悩み主婦」とかになってるのを見ると、そこはかとない不安がよぎるのであった…

でも原作がとても面白かったのでね、映画も観ますよ。楽しみです。

 

というわけで以下、小説のラストまでネタバレしていきますので、映画を観るまで前情報は入れたくない!という方はここでバイナラ( ^_^)/~~~

 

(12/10追記)

映画を観ました。感想はこちら。

 

 

 

主な登場人物と映画化キャスト


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映画『来る』公式サイトより

田原秀樹・・・第一章の語り手。香奈の夫で知紗の父親。自称"イクメン"パパ。幼い頃母方の実家で祖父とともに謎の存在=ぼぎわんからの訪問を受けてしまう。香奈の妊娠を機にさまざまな怪奇現象に襲われるようになり、同級生の民俗学者・唐草に助けを求める。

実はイクメンとは名ばかり、育児に口だけ出す、子のケガは見てるだけ、イラつく育児ポエムを載せた名刺を作る、浮気はするわのクソクズ。そのため香奈からは内心疎まれていた。とは言え、妻と娘を守りたい気持ちは本物。最期はぼぎわんの罠に嵌められ、頭を齧り取られ殺される。

映画では妻夫木聡が演じる。とりあえず読んでて「めっちゃ妻夫木っぽいキャラ!」と思いました。ナイスキャスティング。

 

田原香奈・・・第二章の語り手。控え目で従順な秀樹の妻、かと思われたが…。

実は、夫とは元々子育てや「子ども」に関して意識の違いを感じてはいたが、自分流の育児を押し付けるやり方と、パパ活と称した夫の下らない遊びにブチ切れお守りを破り棄てる。そのためぼぎわんの攻撃を受け入れ易くしてしまった。ぼぎわんの執拗な追跡により娘知紗を奪われ、精神を病んでしまう。

映画では黒木華が演じる。うわぁ〜キレてお守り切りまくる華ちゃん、観たいなぁ。ゾクゾク。

 

野崎・・・第三章の語り手。売れないオカルトライターで真琴の恋人。子どもは苦手。特技はお菓子作り。琴子と共にさらわれた知紗を救い出すためぼぎわんと闘う。無精子症である。

映画で演じるのは岡田准一。

 

比嘉真琴・・・派手な髪色の霊能力者。秀樹と面会し、妻との不和を感じとる。知紗のことを気にかけ度々田原家を訪れるようになる。秀樹の死後も田原家と関わるが、知紗と香奈を守るためぼぎわんと対峙し重傷を追う。子ども好きだが子どもは産めない体である。

映画で演じるのは小松菜奈。

 

比嘉琴子・・・その界隈では名の知れた最上位の霊能力者。沖縄の「ユタ」の血を引いている。警察関係者にも顔がきく。あまりに力が強いと霊たちにも有名で、ザコい霊はお祓い前に逃げ出してしまう。田原家に襲いかかる「ぼぎわん」の強大な力を察知し、妹に連絡を取る。知紗を救うため野崎と行動を共にする。

映画では松たか子が演じる。松たか子と小松菜奈が姉妹とかまじか…。

 

唐草・・・大学で民俗学を研究している秀樹の中学の同級生。秀樹に野崎を紹介する。

しかし再開した秀樹のあまりのクズっぷりに幻滅、秀樹の死後は香奈にモーションをかけるが相手にされず、怒りから田原家に魔導符を送りつけてしまう。それがぼぎわんを呼び寄せる引き金の一つとなったと考えられる。

演じるのは青木崇高。役名「津田」に若干変わってますが…なぜ?

 

逢坂勢津子・・・琴子の声がけで田原家を助けることになった知る人ぞ知るアマチュア霊能力者。しかし、立ち塞がる「ぼぎわん」の力になすすべもなく…。

多分だけど、この人とか後輩くんはなまじ霊感があったから邪魔者扱いされてぼぎわんに噛まれちゃったんじゃないかなぁ、と。

f:id:minmin70:20181012004555j:image予告編映画『来る』予告 - YouTubeより

柴田理恵のメガネ外した顔って初めて見たかも 笑。

 

 

「ぼぎわん」ってなんなのよ?

「ぼぎわん」は、家に訪れて声をかけ、返事をした者を山へさらうと言う、妖怪やお化けの類のような扱いをされています。名前の由来が、西洋の「ブギーマン」が訛ったものという発想も面白いし、噛まれると毒=妖気に体を蝕まれて死ぬ、なんて特徴は吸血鬼のモチーフでしょうかね。

口減らしのために禁忌=「お山」へ捨てられた子どもの成れの果てという所に日本という風土の闇を感じるし、長い髪と鋭い乱杭歯を持つという恐ろしげな見た目や、田原家を襲うようになるのが魔導符だったり負の感情=「呪い」というのも実にジャパニーズホラー的です。

 

ただ、田原家に降りかかる「呪い」ももちろんなのですが、ぼぎわんの住処(とされる)「こだから山」に湧いた温泉もぼぎわんの力を強くした遠因だとわたしは思っています。

温泉って地下から湧き出るわけでしょう?地下は地獄・あの世・異界であり、ぼぎわんのいる世界。何も知らない人間がお金のために禁忌を犯して穴を掘った=あちらとこちらの世界を物理的に繋げてしまった、とも考えられます。現代人の私利私欲がぼぎわんの力を強大なものにしてしまったのです。

そう言った意味でもぼぎわんは、わたしたち現代人が忘れてしまった禁忌への「畏怖」(それはある種の敬意でもある)の象徴なのかもしれません。ぼぎわんの恐怖は「失われた伝承の恐怖」そのものなのではないかと思いました。

 

 

「ちがつり」「さむあん」の意味は、アレです!

小説の最後は、琴子と野崎によって救われた知紗がぼぎわんの言葉ー「さおい・さむあん・ちがつり」を呟いて終わるのですが、この「ちがつり」、誰しもがなんなんだ?と思ったのではないかと思います。なんとも不気味な響きです。

ぼぎわんが「ブギーマン」なら、ちがつりもきっと英語なのではないか?と考えると…玄関先でお化けが言う言葉、そう、「trick or treat」!とりくおあとりと…とりかとり…ちがつり…。小説内にも映画『ハロウィン』の話題が出てますし、多分そうだと思う。

どうしてぼぎわんが知紗のことは殺さずに連れ帰ったのかというと、それは彼女がこの言葉を唱えるハロウィンの主役、「子ども」だったから。

「さおい」と「さむあん」はハロウィンの元になった(諸説あり)ケルト族のお祭り「サウィン」とその別名「サムハイン」のことだと考えられます。

サムハイン祭(さむはいんさい)とは - コトバンク

サムハイン祭 | ハロウィーンガイド

 

つまりこの小説、「もしずっと昔にハロウィンが日本に入ってきていたら?」という日本版ハロウィンの新たな解釈を描いて、現代日本の浮かれたハロウィンに一石を投じる作品なのではないでしょうか?コスプレしてやいのやいの騒いでる現代人に、「日本のハロウィンそんなんじゃねぇやい」って。本当は怖い日本のハロウィン〜って。そうだそうだ、お菊とお岩と貞子がいるジャパニーズホラーの国だぞ、あんなあっけらかんとしたお化け祭りがあるかい。みんな!もう今年からは「ち、ちがつり…」で各家庭を回るんだ!お菓子じゃなくて命を寄こせ! ってな!

…なんかそう考えたら楽しくなってきたぞ)^o^(

 

 

 

どうやら、霊媒師の琴子が絡んでいる続編がすでに出ているようでして。

ずうのめ人形 (角川ホラー文庫)

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などらきの首 (角川ホラー文庫)

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もしかしたらこのままシリーズが続けば、いつかぼぎわんとの再対決があったりして?数々の謎もそのうち明らかになる時が来るかもしれませんね。

ともかく、12月公開の映画を楽しみに待ちます!

 

 

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