ファンタスティック映画主婦

専業主婦の専業主婦による専業主婦のためにはならない映画ブログ。考察などとは無縁の感想文は基本ネタバレ。独断と偏見による☆評価 満点は★5 (2017年4月「苺チョコレートをまるかじり」よりタイトル変更しました )

ヴィクトリアーー転落への夜明け★★★(3.0)

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あらすじ

3か月前にマドリードからベルリンへとやって来たばかりのヴィクトリア。友達と呼べる者もおらず、さみしさを紛らわすかのように一人踊り明かしたクラブからの帰り道、4人の男に声をかけられる。陽気で気さくな彼らとビールを飲み交わし、楽しいひとときを過ごすヴィクトリアだったが、この出会いが、彼女の人生を一変させることとなる…。

 

 

 

リアルタイムにワンカット長回し。CGや編集技術も格段に進歩したこのご時世にあえてマニュアルな手法で挑んだこの映画。この勢いは自主制作映画の若者のノリですよ。もちろん、規模も予算も桁違いでしょうが。 

ワンカット長回しを売りにした映画と言えば古くはヒッチコックの『ロープ』、最近では『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』がありましたけど、これらは実際には編集技術でそう見せているだけでしたし。

今作のカメラは主要人物たちにぴたりと寄り添って離れることがないので、彼らの生々しい息遣いが観ているこちら側にも伝わってきて、没入感と緊張感は半端ない。車内のシーンなんて、息苦しく感じるくらいです。

 

わずか12枚の脚本(というよりシチュエーション説明みたいなものだろうな)でここまで完成された映画になっているのはすごいですよ。セリフはほぼアドリブらしく、実際にハプニングやセリフ間違いもあったようです(けど自然過ぎて違和感ない)。 

もし取り返しのつかないようなNGを出してしまったら全てパァなわけでしょ。ものすごいプレッシャーですよね。最後までやり切るだけでもつらいのに、演技は一定の水準以上です。出演者の役者魂に脱帽、とにかく素晴らしいとしか言いようがないです。

特にヒロインを演じたライア・コスタ。「メフィスト・ワルツ」をピアノで弾くシーンは鳥肌が立ちました。四人組の一人でヴィクトリアといい感じになるゾンネ役の人は、見たことあるなーと思ったら『陽だまりハウスでマラソンを』の体たらく介護士でしたね。イケメンではないけど、印象に残る顔つきをしています。

陽だまりハウスでマラソンを--老人が走って何が悪い ★★★★☆(4.5) - 苺チョコレートをまるかじり

 

それから驚いたのは、というかむしろ当然と思うべきなのか、エンドロールで真っ先に出でくるのは監督でも主演女優でもなく、撮影担当のカメラマンの名前だったんですね。
おそらく手持ちカメラ片手に役者たちを追い、車に乗り、階段登ったり下りたり、走って動いて、この作品は彼の労力の賜物であることは間違いないでしょう。いやー本当に大変だったと思うよー。

 

 

 

以下ネタバレあり。

 

 

 

 

 

 

第二の主役は夜明けのベルリン

まず、この映画の何がすごいかと言うと、オールロケだってところ。ここまでやったらある意味無謀な賭けとも思える(笑)。

どれくらいの規模のロケハンなのかわかりませんが、相当根回しして用意周到に準備して臨んだんだろうということは容易に想像できます。これ、撮影当日も大変だけどその前の準備段階も絶対に大変だったと思う。団地敷地内での銃撃戦なんて、おそらく何度もリハーサルしたんじゃないのかなー。

ロケはベルリンのクロイツベルク周辺で行われたそうです。しかも移動距離も狭いので、ベルリン市民やロケ地周辺を知っている人には「ここってあそこじゃない?」って思えて楽しいかもしれない。そういう意味でも、この映画でのロケーションはかなり重要な要素だと思います。

また、夜明け前から朝にかけて物語が進行するのも、空が白むにつれて若者たちの無計画さがより際立ち、その犯罪の虚しさを強く映し出しているように感じましたね。…まぁおそらくその時間帯が一番撮りやすかったってこともあるのでしょうが。

 

でも残念だったのは、彼らは車(と言っても盗難車)で移動するのですが、リアルタイムワンカットの性質上その範囲はとても狭いので、同じところをぐるぐる回っているようにしか見えないところ。近くの銀行襲って近くのクラブでハジけて〜って、そんなん捕まるの当たり前だろ(笑)。

 

 

青春映画な前半と急に犯罪映画になる後半

ヴィクトリアと男四人組は「現状に満足はしていないけど、どうにもならない現実」に生きている若者なんですよね。そんな彼らが夜明け前の街で万引きやら不法侵入などの軽犯罪をやらかしながら、のんべんだらりと過ごす様子は、物憂げな青春映画を観ているようで心地よいんです。

ヴィクトリアと男たちは言語的な隔たり(ゾンネとヴィクトリアは片言の英語でコミュニケーションをとっているが他の仲間とは言葉がうまく通じない)もあり、関係性にちょっとした緊張感が生じるのだけれど、そこがまた面白い。

 

けれど、途中から急に雰囲気ががらっと変わって、チンピラの元締めが出てきたり拳銃を持たされたり、和気あいあいとしていたはずの男たちが殺気だってがなり立てたりして…「あれ、さっきまでの和やかさはどこへ?」とちょっと面食らいました。

一応、ムショ上がりの坊主のボクサーって仲間がムショでお世話になった親分に忠義見せるため銀行強盗する…とまぁ何となく辻褄は合っていると思えるんですけど。

観客もヴィクトリアと同じようにわけもわからないまま事件に巻き込まれている気分にさせようという目論見なのかもしれませんが、わたしは最後までおいてけぼりな気分でした。

 

そんなわけで、試みは大いに評価できると思うけれど、お話自体にはそれほど魅力はなかったです、残念ながら。若者の軽率な犯罪が結果的に身を滅ぼす、なんて展開は大して目新しくはないんですよ。もしこの映画が普通に撮影されたものなら、誰にも見向きされなかったはず。

キャラクターの造形もよく考えられはいるんです。ゾンネやボクサーも決して悪人ではなく、仲間思いで気のいい、ちょっとやんちゃなどこにでもいそうな若者たちなんですね。ヴィクトリアに関しては、ピアノ一筋だったけれど自分の才能を悟って挫折してしまった優等生というバックグラウンドがある。異国の地で友達もおらず、一人クラブで踊り明かすくらいしかはけ口がない孤独な女の子で、ずっと「いい子」でい続けた彼女が見知らぬ土地でちょいワルに憧れ、ゾンネたちと行動を共にする…というのもまぁ無理はないかなと思えるんですね(最後に泣いたのも、ちょっと気のあったゾンネが死んだから、というより「また一人になっちゃった…」みたいな気持ちだったのかもしれない)。

でも、やはり140分の枠内に収めようとしたために、登場人物の描写は浅くなりがちで、最後まで彼らの行動にいま一つ乗り切れなかったというのも事実。ちょっと強引&唐突感は否めなかったです。とにかく、前半と後半との落差が激しすぎ。わたしは前半のノリの方が好きでしたが、人によっては前半が間延びすぎてダルいと感じるもしれないです。

 

とはいえ、役者とスタッフが込めた勢いと気合いの挑戦に、映画好きならきっと燃えるはずです。一見の価値はあると思いますよ!

 

 

 

 

有名どころで最近の映画でワンカット長回しと言えば、な作品。映像は確かに考えられていてすごいけど、オチはあまり好きではないです。

  

あまり有名ではない95分ワンカットの韓国映画。過去を遡るシーンでもカットせず、舞台装置をうまく使って表現していたのが印象的。映画というより大がかりな演劇って感じかな? 

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